2025.12.24 | #開発秘話
挑戦が技術をつなぐ | 日本カタン技術部のエースが語る「新工法開発」
記事を書いた人
M.A / 技術部
日本カタンの技術は1918年の創立以来、数々の人の手によって磨かれてきた。
いまその最前線に立つのが、技術部長の松下氏だ。
今回は松下氏に、新工法開発についての話を聞いた。彼が設計部門の係長として現場と開発に直接携わっていた当時の経験。 そこに浮かび上がってきたのは、当社に受け継がれる技術と挑戦の姿だった。
≪経歴紹介≫
技術部長 松下氏
1995年 当社へ入社。入社後、設計課へ配属。
以降、現在に至るまで30年間にわたり設計に従事。
お客様の声にこたえたい
新工法開発のきっかけは、いまから17年前。松下氏が設計係長を務めていた頃だった。
会話の中で、お客様からこんなことを言われた。
「電工さんが足りない」
電工会社の人手不足は深刻だった。実際の工事を担う電気工事士は、第1種、第2種ともに不足が見込まれていた。
第1種については2020年前半までに2万人ほど、そして第2種については2045年に0.3万人ほど不足すると見込む推計もあった。
加えて、いずれも有資格者のうち50歳以上が半数を占め、高齢化が進んでいた。
(出典:経済産業省『電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について』よりデータを引用し、当社にて再作成)
現場では人手不足が深刻な状況だった。限られた人手で、決められた工事を完了させる必要がある。 そのためには、なるだけ早く作業を完了させるために作業効率の改善が求められていた。
工期短縮への強い要望に応えられる、新工法の開発。
当時の設計係長、松下氏に課せられたミッションはこれだった。
プロジェクトに参画し、この解決に取り組み始めた。
電力会社・施工会社・日本カタン 三位一体で挑んだ開発
このプロジェクトは日本カタンだけで完結するものではなかった。施工会社や電力会社の要望に基づき、 日本カタンが工具の設計と試作試験を担当した。施工会社からは現場の意見をもらい、電力会社からは 鉄塔強度の確認や新工法の安全性評価を行ってもらった。三者の協力体制のもと、設計と試作試験に明け暮れる日々が続いた。 設計を重ねる中で課題として浮かび上がったのは、次の2点だった。
1. 4導体の径間スペーサを破損させずに電線張力を均等に組み込むこと
2. 工具をがいし装置に設置したまま夜間送電が可能であること(コロナ放電の抑制)
2つ目の課題は、特に工期短縮と大きな関わりがあった。コロナ放電の出どころは、工事が行われている間、がいし装置に設置したままの工具だった。 作業効率の改善のためには、工具を毎回おろすことは考えられなかった。工具を夜間もがいし装置に設置しながら、同時にコロナ放電を抑制する。 この課題を解決するために、松下氏は専用ホーンの設計と試験を繰り返し実施した。当時を振り返ってこう語る。
「自分の中で上手くいくと信じた設計でも、実際の結果が想定を上回ることが起こり、何度も工具の設計や試作を繰り返した。 正直、何度も心が折れそうになった時があったが、関係者の協力と作業員の労力を提言させるという強い気持ちがあってやり遂げられた。」
こうしてようやく、夜間送電に影響のない範囲までコロナ放電を抑制できるホーンが完成した。
課題の突破口 "湾曲型"
課題はコロナ放電の抑制だけではなかった。今回のプロジェクトのために試作した工具を、施工会社に確認してもらったところ、新たな問題が見つかった。
電線の取り込みしろが不足していた。
「このままでは施工に耐えない」松下氏も直感的にそう理解した。
ここで突破口になったのは、大体な形状変更だった。
「工具全体を湾曲させたらどうだろう?」
これが功を奏した。形を変えることで、電線の取り込みスペースが確保できた。
2年半の調整が生んだ成果
開発期間は、2008年3月から2010年9月までの約2年半におよんだ。完成した工法は社内外で高く評価され、複数の賞を受賞した。
特に「澁澤賞」の受賞は大きな喜びだったと松下氏は語る。
松下氏「澁澤賞を受賞した喜びはあったものの、本活動を無事に完了させることができた安堵感や喜びの方が大きかった。 ≪百聞は一見に如かず≫というように頭の中で考えて設計するよりも、現場の作業状況を経験したうえで設計する方がより良いアイデアが生まれ、 付加価値のある製品設計に繋がると思う。」
松下氏が設計に携わった製品は、今もなお主力製品として販売されている。この工法を応用した製品も数多く開発された。 2年半の挑戦は、いま現在も、そしてこれからも、日本カタンの技術の中に息づいている。
設計係長から技術部長へ変わる役割、変わらぬ姿勢
現在、松下氏は技術部長として部下の指導にあたっている。いま、開発に直接携わるのは彼の部下たちだ。
松下氏は彼らにこう教えている。
松下氏「ぜひ施工現場に行ってみてほしい。"現場でどんな方法で工事が行われているのか"を知ることで、机上の知識だけではなく"施工に関する理解"も深まる。この経験は将来、必ず役に立つ。」
図面上で理論的に正しくても、それが現場のニーズに合っているとは限らない。
だからこそ現場に足を運び、実際の施工に触れ、肌で学ぶ必要があると語る。役割が、自分で携わる立場から指導する立場へ変わっても、そこには変わらないものがあった。
受け継がれた挑戦の精神
部下たちは松下氏を評してこう言う。
「設計は人がする仕事であり、そこにはどうしてもミスが起こってしまいます。しかし、松下部長はその点も凄いですね。課内で起こったミスを迅速に解決しつつ、根本原因を追究し、断ち切る。
その"当たり前"を遥かに超えた領域で業務を遂行する姿勢は、常に新たな一歩を踏み出し、会社のためよりも常にお客様第一である。」
これこそが受け継がれた挑戦の精神。日本カタンの技術には、撓みなき挑戦が宿っている。
